「コーヒー豆を挽く音が大きいので、講座中のコーヒーの注文は受け付けません」店主ユミさんからのノーコーヒーミル宣言で講座がスタート。今日はすごく特別な日。「ボサノヴァ」音楽の最高の詩人ヴィニシウス・ヂ・モライスを語らせたら彼の右に出る者はいない。憧れの福嶋先生のボサノヴァ講座なのだ。
2015年限定で毎月KIMOBIGがプロデュースしているBrasil no cafe músicaイベントの9月講座。「ボサノヴァの詩を読む」という少しマニアックにも思えるテーマだが、告知と同時に定員が埋まった人気講座である。今回の参加者はプロのボサノヴァ歌手から、ギターを勉強中の方、小学生のころからブラジル音楽を聴いてきたというダンディなおじさま、ブラジル音楽ってどんなのかしら?という方まで様々。
ボサノヴァの誕生から終焉まで、1つの歌曲につき発売時期の違う音源を何曲も耳を澄まして聴く。ギターのカッティングやヴォーカルの歌唱法、ポルトガル語発音の微妙な違いを聞き分け、ポルトガル語と日本語の訳が記載された歌詞カードを追いながらボサノヴァが完成する過程を聞き取る。一見難易度が高いように思えるが選曲はスタンダードな楽曲で、その曲が作られたエピソードや時代背景など先生のわかりやすい解説や生演奏を聞くと、頭のなかのハテナマークの秋雲がどんどん風に流され、終いには晴れきったコパカバーナビーチの空のよう。途中、大変貴重なライブ音源での歌手たちのやりとりを、先生は一時停止を細かく押しながら一つ一つ丁寧に訳してくれた。音源の中のブラジル人たち観客が笑うのと同時に自分たちも笑い、なんだかボサノヴァが生まれた時代のあの空間にタイムスリップしたような感覚に陥った。
印象的だったのが「SAUDADE(サウダージ/郷愁)」というポルトガル語の感覚、言葉の説明である。他の言語では一つの単語で言い表しづらい複雑なニュアンスを持つといわれるこの言葉だが、ブラジル音楽が身近な方ならば幾度となく聞き、使い、なんとなく理解できているような「気がしている」感覚だろう。以前先生が新聞に寄稿した記事を音読し、ポルトガルやブラジルの詩人が「サウダージ」について表現した詞に触れる。続いてブラジルの画家アウメイダ・ジュニオルが描いた美しくも悲しい絵画「サウダーヂ」と、フェルメールの「手紙を読む青衣の女」を見比べた。ふたつの似かよった境遇にある女性から感じる表情や構図などから、先生は「サウダージ(郷愁)」を「孤独と幸せを同時に呼ぶ言葉」と表現した。
「ボサノヴァの詩を読む」講座。ポルトガル語の詩、ジョアンのカッティング、ヴィニシウスの葛藤、トムの笑い声、福嶋先生のひとつひとつの言葉、すべてため息が出るほど美しかった。私たちはこれほどまでにボサノヴァに惹かれ、ボサノヴァを知らない。cafe músicaという屋号にふさわしい音楽講座。またいつの日か、続編を願う。
Aula de Bossa Nova
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